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軽井沢の別荘は高い。
中古なら意外と安く買えるんじゃないか、なんて軽い気持ちで物件を探し始めた私は、早々にその現実を知ることになった。
とはいえ、まだ諦める気はなかった。
軽井沢といっても広いだろうし、駅から少し離れれば安い物件もあるかもしれない。
そう考えて、検索条件を少しずつ広げていった。
すると、物件情報の中に見慣れない言葉が出てくるようになった。
旧軽井沢。
これは知っている。
旧軽井沢銀座があるところだ。
私の中では、木立の中に古い別荘が建っていて、おしゃれなお店が並んでいて、夏になると避暑に訪れる人たちで賑わう。
いわゆる「軽井沢」と聞いて思い浮かべる景色だった。
ところが、そのうち妙な地名が出てきた。
中軽井沢。
中?
中軽井沢ってなんだ?
さらに、
南軽井沢。
南まである。
そのうえ、
追分。
もう軽井沢という名前すら付いていない。
私は混乱した。
それまで私の中では、軽井沢は「軽井沢」だった。
ひとつの町で、ひとつの別荘地。
軽井沢駅があって、その周辺に別荘が建っている。
たぶん、その程度の認識だった。
ところが物件を探し始めた途端、軽井沢が猛烈な勢いで分裂し始めた。
旧軽井沢?
中軽井沢?
南軽井沢?
追分?
何がどう違うの?
私はそこで初めて、軽井沢の地図をまじまじと眺めることになった。
私の知っていた「軽井沢」は、軽井沢のほんの一部だった

地図を見てみると、なんとなく構造がわかってきた。
ざっくり言えば、軽井沢駅周辺があって、その北東側に旧軽井沢。
駅から西へ進むと中軽井沢があり、さらに西へ行くと追分。
そして軽井沢駅から南へ広がるエリアが南軽井沢と呼ばれている。
もちろん、不動産会社や観光案内によってエリアの分け方や呼び方には多少違いがある。
これがまた初心者を混乱させる。
でも、とにかく私が思っていたより軽井沢はずっと広かった。
しかも、ただ場所が違うだけではない。
エリアごとに雰囲気も違えば、物件の価格も違う。
「軽井沢に別荘を買いたい」
というだけでは、ぜんぜん絞れていなかったのである。
旧軽井沢――そうそう、私が思っていた軽井沢はこれ
まず旧軽井沢。
歴史のある別荘地で、古くから避暑地として発展してきた場所。
木々に囲まれた別荘。
歴史を感じる建物。
旧軽井沢銀座。
私が「軽井沢」と聞いて頭の中に描いていた景色は、どうやらこのあたりのイメージがかなり強かったらしい。
物件を見ても素敵だった。
木立の中にひっそりと建つ家。
苔むした庭。
大きな窓。
暖炉。
いい。
とてもいい。
ただし。
高い。
私がいいと思うものは、だいたい高かった。
世の中、よくできている。
新軽井沢――旧があるなら新もある
物件を調べていると「新軽井沢」という言葉も出てきた。
旧があるのだから、新があってもおかしくはない。
でも、それまでそんなことを考えたこともなかった。
新軽井沢は、ざっくりいえば軽井沢駅周辺。
新幹線で軽井沢へ行ったときに目にする、私にとって馴染みのある「現代の軽井沢」に近かった。
駅があって、買い物ができて、ホテルがあって、人が多い。
便利そうではある。
ただ、私が別荘に求めていたのは、もう少し森の中に引っ込んだ暮らしだった。
そこで検索範囲はさらに西へ延びていった。
中軽井沢――「中」って何だと思ったら駅まであった
そして登場する。
中軽井沢。
最初に見たときは、本当に意味がわからなかった。
軽井沢の中心部だから中軽井沢?
くらいに思っていたのだが、調べてみると普通に中軽井沢駅まである。
しかも周辺には住宅もあり、温泉もあり、飲食店もあり、観光スポットもある。
私がぼんやり思い描いていた、
「軽井沢=観光客が遊びに行く別荘地」
とは、少し違う顔が見えてきた。
ここなら“遊びに行く場所”ではなく、“暮らす場所”として考えられるのでは?
そんなことを思い始めた。
そして、このころから少しずつ、私の物件の見方も変わっていった。
旧軽井沢に近いほど素晴らしい。
駅に近いほど価値がある。
最初はそんなふうに考えていた気がする。
でも私は、毎日旧軽井沢銀座へ遊びに行きたいわけではない。
ブランドショップもいらない。
欲しいのは、静かな環境だった。
窓から木が見えて。
犬と散歩ができて。
夏は東京より涼しくて。
それでも買い物には困らない。
そう考えると、むしろ中心から少し離れているほうが、自分たちには合っているのではないか。
追分――え、ここも軽井沢なの?
そして、さらに西へ。
次に出てきたのが追分だった。
ここまで来ると、もう名前に「軽井沢」すら付いていない。
最初は別の町だと思った。
ところが追分も軽井沢町だった。
昔の宿場町の面影が残る場所で、旧軽井沢とはまた違った落ち着いた雰囲気がある。
物件を見ていると、なんとなく空気も変わってくる。
華やかな避暑地というより、
静かに暮らす場所。
そんな印象が強くなった。
そして私は、ふと思った。
こっちのほうが好きかもしれない。
観光客で賑わう中心地より、少し離れた静かな場所。
家同士がぎゅっと詰まっているより、木々に囲まれている場所。
豪華な別荘より、普通に暮らせる家。
どうやら私は「軽井沢に住みたい」のではなく、
軽井沢にあるような環境で暮らしたい
のかもしれなかった。
そして南軽井沢まで出てきた
しかし軽井沢迷宮はまだ終わらない。
今度は南軽井沢である。
中があって、南もある。
私はいよいよ地理の授業を受けている気分になってきた。
南側にはゴルフ場や別荘地があり、場所によっては森だけではなく、空が開けた景色も見えてくる。
旧軽井沢とは、また違う。
同じ「軽井沢」という名前の中に、
森に包まれた場所もあれば、
住宅地らしい場所もあり、
昔の宿場町もあり、
開けた高原のような景色もある。
調べれば調べるほど詳しくなるはずなのに、
調べれば調べるほど「軽井沢」がわからなくなっていった。
検索窓には、
「旧軽井沢 中古別荘」
「中軽井沢 中古住宅」
「追分 別荘」
「南軽井沢 物件」
と、次々に新しい言葉が増えていった。
数日前までバケーションレンタルを探していた人間とは思えない。
私が欲しかったのは「軽井沢」という名前ではなかった
でも、この迷走には意味があった。
軽井沢のいろいろな地域を調べたことで、初めて、
自分たちは何を求めているのか
を考えるようになったからだ。
軽井沢というブランドが欲しいわけではない。
有名な観光地の近くに住みたいわけでもない。
欲しいのは、
夏が少し涼しくて、
緑があって、
静かで、
家のまわりに余裕があって、
それでいて生活に不便すぎない場所。
そしてできれば、別荘地のようにある程度管理されていて、人付き合いが濃すぎないところ。
そう考えていくと、ひとつの疑問が浮かんだ。
それなら、軽井沢じゃなくてもいいのでは?
日本には軽井沢以外にも別荘地がある。
高原リゾートだって、ほかにもある。
軽井沢が高いなら、別の場所を探せばいい。
房総半島。
伊豆。
那須。
八ヶ岳。
宮崎。
沖縄。
山の別荘地を見たかと思えば、翌日には海の近くのマンションを見ている。
100平方メートルを超える沖縄のマンションを眺めたかと思えば、今度は聞いたこともない高原の名前を検索する。
蒜山。
……ニラヤマ?
もはや私は、どこへ移住したいのか自分でもよくわからなくなっていた。
こうして移住先探しは、軽井沢から日本全国へと広がっていった。
この記事のトピック
軽井沢が高いなら、少し場所をずらせば安いのでは?
- 価格を下げるために検索範囲を広げ始める。
物件サイトで知らない地名が次々に出てくる
- 旧軽井沢
- 新軽井沢
- 中軽井沢
- 南軽井沢
- 追分
- 「軽井沢ってひとつじゃないの?」と混乱。
初めて地図を見て、軽井沢町の広さと位置関係を知る
- 旧軽井沢は東側
- 軽井沢駅周辺が新軽井沢
- 西へ中軽井沢、さらに追分
- 南側には南軽井沢
- 追分の先は御代田方面、東側は群馬県との県境に近い。
旧軽井沢=自分が思い描いていた“ザ・軽井沢”
- 木立、歴史ある別荘、避暑地らしい雰囲気。
- ただし、やっぱり価格は高い。
中軽井沢で「暮らす軽井沢」が見えてくる
- 駅もあり、温泉や店もあり、観光地だけではない。
- 「ここなら定住もありなのでは?」と見方が変わる。
追分まで軽井沢町だと知って驚く
- 華やかな観光地というより、静かで落ち着いた雰囲気。
- 中心から離れた場所のほうが、むしろ自分好みかもしれないと思い始める。
南軽井沢では、森だけではない軽井沢を知る
- ゴルフ場や別荘地、開けた高原・田園風景。
- 「軽井沢=森の中」というイメージも崩れていく。
調べるほど、軽井沢の呼び方まで複雑だと知る
- 不動産会社や観光案内によってエリアの区切り方も少し違う。
- 調べれば調べるほど迷宮化。
観光で憧れる場所と、暮らしたい場所は違うと気づく
- 駅近や有名観光地より、
- 静か
- 緑が多い
- 涼しい
- 土地に余裕がある
- 生活に不便すぎない
という条件のほうが大事になる。
「軽井沢」というブランドそのものへの執着が薄れる
- 欲しいのは軽井沢という名前ではなく、軽井沢のような環境。
- 「それなら、ほかの別荘地でもいいのでは?」と発想が広がる。
次の候補、那須高原へ
- 軽井沢以外の高原・別荘地も探し始める。


