目次目次を閉じる
7月の私は、
物件サイトの中で家を建てていた。
土地を探し。
平屋を考え。
ドッグランを作り。
猫の庭を作り。
畑を置き。
雑木林まで残した。
とうとう2000平方メートルの土地全体を使って、
理想の暮らしのマスタープラン
まで作ってしまった。
もちろん。
土地はまだ一坪も持っていない。
すべて妄想である。
そして8月に入った頃。
私はようやく、
画面の向こう側にいる人へ連絡してみることにした。
不動産会社である。
それまで私は、物件サイトを見ていただけだった
考えてみれば、
それまではずっと、
一方通行だった。
写真を見る。
間取りを見る。
価格を見る。
地図を見る。
説明文を読む。
そして、
自分の頭の中だけで判断する。
「ここ良さそう」
「これはちょっと違う」
「この土地なら家を建てられそう」
好き勝手に言っていた。
でも。
本当に家を建てるつもりなら、
いつかは聞かなければならない。
これ、実際どうなんですか?
と。
安くて広い土地が、やっぱり気になる
この頃の私は、
かなり土地に目が向いていた。
数百万円。
それなのに、
何千平方メートル。
東京では考えたこともない数字が、
普通に物件サイトに並んでいる。
森もある。
広い。
安い。
写真だけ見ていると、
どうしても思う。
これ、めちゃくちゃいいのでは?
家を建てる。
犬を走らせる。
畑を作る。
薪を置く。
森を残す。
頭の中では、
もう土地の使い道まで決まっている。
ただ。
ようやく私は、
一つだけ慎重になっていた。
本当に家を建てられるの?
初めて、不動産会社に聞いてみる
そこで、
問い合わせフォームを開いた。
これまでなら、
「気になるなあ」
で閉じていたページ。
でも今回は、
送ってみる。
聞きたいことは、
いろいろあった。
住宅を建てられるのか。
道路はどうなっているのか。
車で入れるのか。
水道はあるのか。
電気は?
土地は写真通り平らなのか。
普通に暮らす場所として使えるのか。
送信。
……。
ついに聞いてしまった。
物件探しを始めてから、
初めて少しだけ、
現実世界へ足を踏み出した感じがした。
そして、返事が来る
不動産会社から返事が来た。
そこには、
物件サイトの写真を眺めているだけでは分からなかった情報があった。
道路のこと。
建築するときに確認しなければならないこと。
水道や電気などのインフラ。
土地の実際の状態。
つまり、
私が写真を見ながら
「広い! 安い! ここに家建てよう!」
と思っていた土地にも、
当然ながら、
条件がある。
……。
そりゃそうだ。
でも、
その「そりゃそうだ」を、
私はこのとき初めて実感した。
道があるように見えても、それだけではない
特に驚いたのが、
道路だった。
私はそれまで、
土地の前に道があれば、
それでいいと思っていた。
車が通れる。
写真にも道が写っている。
なら、
そこから家へ入ればいい。
ところが。
不動産の世界では、
「道っぽいものがある」
ことと、
「家を建てるための道路として問題がない」
ことは、
必ずしも同じではないらしい。
ここで私は、
「接道」
という言葉を意識し始める。
家を建てる土地なのに、水道がないこともある
次に、
インフラ。
水道。
電気。
排水。
私は、
住宅用の土地なら、
なんとなく近くまで来ているものだと思っていた。
でも。
原野や山林のような土地になると、
そんな保証はない。
井戸を掘る。
水道を引く。
電気を引く。
排水設備を考える。
つまり、
土地が安くても、
住める状態にするまでに別のお金がかかる可能性がある。
500万円の土地を買えば、
500万円で土地問題終了。
ではない。
7月に別荘の管理費で、
一度似たようなことを学んだはずなのに。
土地でもまた同じことを学んでいる。
写真では平らに見えたのに
そして、
写真というものも難しい。
一枚だけ見ると、
平らに見える。
でも、
実際には傾斜があったりする。
広大な土地の場合、
一部は使いやすくても、
別の場所は斜面かもしれない。
森の写真なんて、
さらに分からない。
木。
木。
木。
どこまで平らで、
どこから傾斜しているのか。
素人の私には、
ほぼ判別不能である。
ここで、
土地は現地を見ないと分からない
という、
不動産では当たり前らしいことを、
少しずつ理解し始めた。
安い土地には「安い理由」があるかもしれない
これは、
この頃かなり大きな発見だった。
安い。
広い。
だからお買い得。
とは限らない。
道路。
造成。
水道。
電気。
排水。
樹木。
傾斜。
建築できる場所。
そこまで含めて考えると、
安い土地が、
必ずしも安く家を建てられる土地とは限らない。
逆に、
土地そのものは少し高くても、
道路や水道が整っていて、
すぐ家を建てられる土地のほうが、
最終的には楽かもしれない。
私はここでようやく、
「土地価格」と「家を建てられる状態にする費用」は別物
だと気づき始めた。
不動産会社に聞くと、一気に言葉が難しくなる
そしてもう一つ。
問い合わせを始めると、
突然、
聞いたことのない言葉が増えた。
接道。
私道。
地目。
山林。
原野。
非線引区域。
建築基準法。
未登記。
……。
待って。
数日前まで、
私は
「薪ストーブ格好いい!」
と言っていただけなのだが。
どうして今、
建築基準法の話をしているんだ。
物件サイトは「入口」だった
それまでは、
物件サイトに書いてある情報が、
その物件のすべてだと思っていた。
でも、
実際に問い合わせてみると、
あそこに載っているのは、
あくまで入口なのだと分かる。
本気で検討するなら、
聞く。
資料を見る。
道路を確認する。
インフラを確認する。
現地を見る。
必要なら役所にも確認する。
そこまでやって、
ようやく
「この土地で暮らせるのか」
が見えてくる。
家探し、
思ったより大変である。
「見るだけ」の物件探しが終わった
でも。
この問い合わせは、
私にとってかなり大きかった。
それまでは、
完全に趣味だった。
物件を見て、
妄想して、
理想の家を描く。
楽しい。
でも、
問い合わせボタンを押した瞬間から、
少しだけ意味が変わった。
本当に買う可能性がある人として、土地を見る。
そういう段階に入った。
そして、謎の不動産用語に囲まれていく
ここから私は、
物件詳細を以前より細かく読むようになる。
すると、
今まで完全に読み飛ばしていた文字が、
次々と目に入るようになった。
未登記。
再建築不可。
接道。
私道負担。
地目。
原野。
山林。
非線引区域。
既存不適格。
増築未登記。
……。
待って。
私は家が欲しいだけなんだけど。
なのに、
家を買うためには、
知らない言葉を一つずつ覚えなければならないらしい。
私の物件探しは、
ここからしばらく、
不動産用語の勉強会
へ突入することになる。
🏠📚🌲



