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那須高原には、いくつもの別荘地がある。
それを知った私は、今度はそれぞれの別荘地にどんな家があるのか、物件を片っ端から眺め始めた。
森の家。
ログハウス。
大きなウッドデッキのある家。
温泉付きの家。
古い家もあれば、きれいにリフォームされた家もある。
見れば見るほど、本当にいろいろある。
その中で。
なぜか何度も写真を開いてしまう、一軒の家があった。
豪邸でも、新築でもなかった
その家は、いわゆる豪邸ではなかった。
新築でもない。
ものすごく大きな家でもない。
ピカピカの最新設備が並んでいるわけでもない。
それなのに、妙に気になった。
ほかの物件を見て、
また戻る。
別の家を見て、
また戻る。
気がつけば、同じ写真を何度も開いていた。
たぶん私は、
家の「スペック」ではなく、
雰囲気に惹かれていた。
森の斜面に、少し浮くように建っていた
外観がまず好きだった。
平らな住宅地に家がぽんと置かれている感じではない。
木々の間の斜面に建っていて、
大きなウッドデッキが、地面から少し浮くように張り出している。
森の中に、
家そのものが入り込んでいるように見えた。
私はそれまで、
家というものは
「土地を平らにして、その上に建てるもの」
くらいのイメージしか持っていなかった。
だから、この家の外観が新鮮だった。
地形を消して家を置くのではなく、
地形の中に家がある。
そんな感じがした。
そして、デッキの下には薪
さらに危険だったのが、
ウッドデッキの下。
そこに、
薪が積んであった。
数日前から薪ストーブにすっかり取り憑かれていた私には、
かなり強い景色である。
家の中には薪ストーブ。
家の外には薪。
ただ設備として薪ストーブが置いてあるのではない。
この家では、本当に薪を使って冬を越しているんだ。
そんな暮らしが、写真の中から見えた。
ここで私は初めて、
薪ストーブを
「おしゃれな暖房器具」
ではなく、
暮らしの一部
として見た気がする。
室内も、ちょうどよかった
中に入ると、
木の壁。
太い梁。
吹き抜け。
大きな窓。
そして薪ストーブ。
いかにも山の家という雰囲気なのに、
暗くない。
閉じていない。
外は森なのに、
室内にはちゃんと光が入っている。
ここが、私にはすごくよかった。
森の家というと、
もっと暗くて、
こぢんまりしていて、
山小屋っぽいイメージを持っていた。
でもこの家は、
森の中にいながら、
ちゃんと開放感がある。
ああ、こういうのが好きなんだ。
写真を見ながら、
ようやく自分の好みが分かった。
欲しいのは「設備」ではなく「景色」だった
それまでの私は、
物件を見るとき、
条件を一個ずつ足していた。
広い家。
庭。
犬が走れる。
薪ストーブ。
ウッドデッキ。
大きな窓。
自然がある。
できれば森。
どれもバラバラだった。
でも、この家を見たとき。
それが初めて、
ひとつの景色になった。
朝、窓を開けたら森。
ウッドデッキに出る。
夏は木陰。
冬は薪を運ぶ。
夜は薪ストーブに火を入れる。
犬は庭を走る。
猫はたぶん、一番暖かい場所を先に取る。
私はその横で仕事をする。
……。
いい。
かなり、いい。
この家を買うかどうか、ではなかった
もちろん、
この家を本当に買うかどうかは別の話だった。
価格。
場所。
管理。
冬の道路。
水道。
建物の状態。
考えなければならないことはいくらでもある。
でも、この物件には、
それとは別の意味があった。
自分がどんな家に住みたいのか、初めて見せてくれた。
それまで私は、
「移住先」を探していた。
でも、この家を見たあたりから、
「住みたい家」を考え始めた。
似ているようで、
少し違う。
薪ストーブも、とうとうメーカーを見るようになった
ちなみに、この頃にはもう、
薪ストーブを見ても
「薪ストーブだ!」
だけでは終わらなくなっていた。
メーカーを見る。
形を見る。
大きさを見る。
鋳物かどうかを見る。
そして、
DOVRE、格好いいな。
などと言い始める。
数日前まで、
薪ストーブに種類があることすらよく知らなかった人間である。
人の成長は早い。
方向が合っているかどうかは知らない。
物件条件が、「暮らしたい風景」に変わった
那須の物件を見始めた頃、
私が最初に見ていたのは価格だった。
次に、
広さ。
土地。
標高。
管理費。
冬の暮らし。
少しずつ見るものが増えていった。
でも、この家を見た日。
初めて私は、
「ここで、どんな時間を過ごしたいか」
を考えた。
森。
デッキ。
木の家。
薪。
火。
窓の向こうの緑。
バラバラだった憧れが、
一つの風景になった。
この頃から、
私の中の「理想の家」に、
少しずつ形ができ始めていた。
そして、また次のことを考える
ここまで妄想が進むと、
当然、次の疑問が出てくる。
こういう家に住みたい。
でも。
買わなきゃダメなの?
那須には別荘がたくさんある。
なら、
薪ストーブ付きの森の家を
借りる
という方法もあるのでは?
翌日。
私は今度は、
「那須 薪ストーブ 賃貸」
と検索し始める。
移住計画は、
また少しだけ方向を変えた。
でも、
森の家への憧れだけは、
もうかなり本気になっていた。



