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Season 0|移住準備編Episode 01

薪ストーブを調べたら、薪を割るところまで話が進んだ

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前日、那須の森の家を見てしまった。

大きな窓。

木の壁。

吹き抜け。

そして、部屋の隅に置かれた薪ストーブ。

それまで薪ストーブなんて、自分の生活とはほとんど関係のないものだった。

山小屋とか。

別荘とか。

田舎暮らしのテレビ番組とか。

そういうところにあるもの。

ところが、一度「いいな」と思ってしまうと、人間は弱い。

翌日。

私は当然のように、

「薪ストーブ 価格」

と検索していた。

この時点では、薪ストーブというものは、本体を一台買えば終わると思っていた。

甘かった。


薪ストーブにも種類があるらしい

まず驚いたのは、

薪ストーブにも種類がある

ということだった。

黒い箱なら全部同じだと思っていた。

全然違った。

鋳物。

鋼板。

形も違う。

大きさも違う。

火の見え方も違う。

暖まり方にも特徴があるらしい。

昔ながらの重厚なものもあれば、すっきりしたデザインのものもある。

私は物件探しをしているはずなのに、いつの間にか薪ストーブの商品ページを眺めていた。

そして、

「これ格好いい」

「こっちもいい」

とやり始める。

家具を選ぶテンションで暖房器具を見始めている。

危険である。


本体の値段だけ見てはいけなかった

薪ストーブ本体の価格を見ていると、

「思っていたより買えるかも?」

と思うものもあった。

もちろん安い買い物ではない。

でも家そのものに比べれば、

「いつかなら付けられるかも」

くらいには見える。

ところが調べていくと、

本体だけでは済まない。

煙突。

炉台。

炉壁。

設置工事。

煙突工事。

メンテナンス。

……。

煙突、高くない?

薪ストーブとは、

黒い箱を買って部屋に置けば完成するものではなかった。

火を使う以上、当然である。

当然なのだが、

憧れている最中の人間は、そのあたりを都合よく忘れている。


そして「薪」という問題にぶつかる

さらに調べていくと、

当たり前の問題が出てきた。

薪ストーブは、

薪を燃やす。

……知っている。

知っているけれど、

では、その薪はどこから来るのか。

ホームセンター?

薪屋さん?

通販?

一冬分ってどれくらい?

そこでようやく気づいた。

薪ストーブを持つということは、

薪を継続的に用意する暮らしになる

ということだった。

ストーブ本体を買えば終わりではない。

燃料がずっと必要なのである。


木なら何でも燃やせばいいわけではない

薪について調べ始めると、

ここにもまた世界があった。

広葉樹。

針葉樹。

火がつきやすい木。

長く燃える木。

割りやすい木。

乾燥させなければいけない木。

私はこのあたりまで来て、

若干遠い目になった。

薪にまで種類があるのか。

木を切って、そのままストーブに入れる。

そんな雑な世界ではなかった。

薪ストーブ、思ったより奥が深い。

というか、

どこまで勉強させる気だ。


「薪活」という言葉を知る

そして私は、とうとうある言葉にたどり着いた。

薪活。

初めて見たとき、

「そんな活動があるの?」

と思った。

あるらしい。

伐採した木を譲ってもらう。

原木を手に入れる。

玉切りする。

薪割りする。

積む。

乾燥させる。

使える薪になるまで育てる。

なるほど。

薪を買うだけではなく、

自分で薪を作る人たちがいる。

その瞬間。

私の中に、ひどく危険な考えが浮かんだ。

自分で作ればいいのでは?


なぜ急に自給しようとするのか

今思えば、

ここで止まっておけばよかった。

「薪は買えばいい」

それで済む話である。

なのに、

移住を考えている人間というものは、なぜか急に自給したがる。

木をもらって。

切って。

割って。

乾かして。

それを冬に燃やす。

……。

なんか楽しそう。

薪割りなんて、やったこともない。

チェーンソーだって使ったことがない。

腕力にも自信はない。

なのに想像の中ではもう、

冬支度をする人になっている。


薪を作るには、置く場所がいる

そしてここで、また問題が出る。

薪は割って終わりではない。

乾燥させる。

つまり、

置く場所が必要。

薪棚。

雨を避けられる場所。

風が通るところ。

原木を置く場所。

薪を割る場所。

……。

あれ?

それって、

けっこう土地が必要なのでは?

ここまで来ると、

薪ストーブ一台の話ではなくなっている。

前日まで、

「薪ストーブいいな」

と言っていただけなのに、

翌日には

薪を置ける土地

を考えている。

話の広がり方がおかしい。


「木がある土地」の見え方まで変わる

さらに危険なのは、

物件写真を見る目まで変わり始めたことだった。

以前なら、

「木が多いな」

で終わっていた土地を見る。

ところが薪について調べたあとだと、

違って見える。

……この木、薪になるのでは?

森。

雑木林。

伐採が必要な土地。

それまでなら「管理が大変そう」と思うはずなのに、

「燃料がある」

という方向から見始める。

完全に思考が薪ストーブに侵食されている。


薪ストーブが欲しかっただけなのに

最初に欲しかったものは、

薪ストーブ一台だった。

それだけだった。

ところが一日調べただけで、

欲しいものが増えた。

薪ストーブ。

煙突。

薪棚。

薪を割る場所。

原木を置く場所。

木を乾燥させる場所。

できれば、薪にできる木。

……。

家一軒から始まった話なのに、だんだん土地まで広くなっている。

しかも、この頃はまだ、

那須に住むと決めてもいない。

どの家を買うかも決めていない。

なのに、

薪の乾燥場所について考えている。

順番がだいぶおかしい。


暖房器具ではなく、暮らしそのものだった

でも、この日ひとつ気づいたことがある。

私が惹かれていたのは、

薪ストーブという機械そのものだけではなかった。

木を集める。

薪を割る。

積んで乾かす。

冬になったら、それを家の中で燃やす。

そういう一連の流れごと、

「こんな暮らしをしてみたい」

と思い始めていた。

便利かどうかだけで考えたら、

エアコンのほうが圧倒的に楽だ。

スイッチ一つ。

薪割り不要。

煙突掃除不要。

それでもなぜか、

火を育てて、

冬を迎える準備をする暮らしに惹かれた。

移住先を探していたはずなのに、

私は少しずつ、

暮らし方そのものを選び始めていた。


そして、土地の条件がまた一つ増えた

こうして私の物件条件には、

また新しいものが追加された。

広い家。

庭。

犬が走れること。

自然があること。

できれば森。

そして、

薪を置ける場所。

薪ストーブへの憧れから、

薪を作る場所まで必要になった。

このときの私は、まだ知らなかった。

この先、

「山林付き」

という言葉まで、

妙に魅力的に見えるようになることを。

たった数日前まで、

海の近くに住みたいと思っていたのに。

私の移住計画は、

着実に森へ向かっていた。

しかも、

斧を持って。

🔥🌲