本文へ移動
Season 0|移住準備編Episode 01

那須の森の家を見て、「こんな暮らしもありかも」と思った日

目次目次を閉じる

那須の中古住宅を見始めた私は、しばらく物件サイトを行ったり来たりしていた。

広い。

安い。

土地もある。

東京のマンション価格に慣れた目には、それだけでも十分おもしろかった。

最初は単純に、

「地方って、こんなに家が安いんだ」

くらいの気持ちだったと思う。

ところが、その日の物件探しの中で、一軒の家が妙に気になった。


森の中に、ぽつんと建つ家

場所は那須。

周囲には木が多く、住宅街というより、森の中に家が建っているように見えた。

大きな窓。

木をたくさん使った室内。

吹き抜け。

広いLDK。

ウッドデッキ。

そして、窓の向こうには緑。

これまで見てきた東京の家とは、まるで違う。

便利な駅。

スーパーまで徒歩何分。

コンビニまで何分。

そういう尺度ではなく、

「この家で一日過ごしたら、どんな感じなんだろう」

ということを、初めて考えた気がする。


そして、部屋の隅に薪ストーブがあった

写真を見ていて、さらに目に留まったものがあった。

薪ストーブ。

それまで薪ストーブなんて、ほとんど気にしたことがなかった。

知識もない。

使ったこともない。

薪をどこで買うのかも知らない。

煙突掃除が必要なのか、火をつけるのが大変なのか、そんなことすら分からない。

なのに。

森の家の中に置かれていると、

ものすごく格好よく見える。

ずるい。

薪ストーブ単体だったら、たぶんそこまで惹かれなかったと思う。

でも、

木の壁。

吹き抜け。

大きな窓。

外は森。

その真ん中に薪ストーブ。

完全にセットだった。


冬の暮らしまで勝手に想像し始める

そこからである。

私は勝手に、まだ買ってもいない家の冬を想像し始めた。

外は寒い。

木々には雪が少し積もっている。

部屋の中では薪が燃えている。

犬はストーブの近くで寝ている。

猫は、たぶん一番暖かい場所を先に占領している。

私はコーヒーでも飲みながら仕事をしている。

……。

いいじゃないか。

まだ那須に住むと決めたわけでもない。

そもそも那須について、ろくに知らない。

なのにもう、

薪ストーブの前で猫が寝ている。

妄想だけ先に移住している。


でも、本当に冬を越せるの?

当然、少し冷静にもなる。

那須って寒いよね。

標高は?

雪は?

薪ストーブだけで大丈夫なの?

エアコンは使える?

水道は凍らない?

別荘って、冬も普通に住めるものなの?

一つ気になると、次から次へ疑問が出てくる。

そして私は、

家そのものだけではなく、

「那須で暮らす」ということ

を調べ始めた。


「別荘」という言葉がやたら出てくる

那須の住宅を検索していると、普通の中古住宅だけではないことに気づいた。

やたら出てくるのだ。

別荘。

別荘地。

リゾート物件。

管理別荘地。

定住可。

別荘利用。

聞き慣れない言葉が、次々に出てくる。

私はそれまで、

別荘というものを

「お金持ちが夏休みに行く家」

くらいにしか思っていなかった。

自分で買うものとして、まともに考えたことがない。

ところが価格を見ると、

普通の家より安いものまである。

え?

別荘って、こんな値段で買えるの?


「安い家」から「こんな暮らしがしたい」へ

この頃から、物件を見る目が少し変わり始めた。

それまでは、

いくらか。

何平方メートルか。

土地はどれくらいか。

駅まで何分か。

そんな条件を見ていた。

でも那須の森の家を見てから、

条件の中に、

森がある。

デッキがある。

窓が大きい。

木の家。

吹き抜け。

薪ストーブ。

みたいなものが混ざり始めた。

もはや物件検索というより、

理想の暮らし探し

になりつつあった。


まだ、このときは知らなかった

この日、

「薪ストーブ、いいな」

と思っただけだった。

本当に、それだけだった。

ところが数日後。

私は薪ストーブのメーカーを調べ、

値段を調べ、

暖房能力を調べ、

薪の入手方法を調べ、

挙げ句の果てには、

自分で薪を作ればいいのでは?

などと考え始める。

さらに、

「こういう森の家って、那須にたくさんあるの?」

と調べ始めた結果、

今度は那須高原の別荘地という新しい沼が現れる。

この時点ではまだ、

私は入口に立っただけだった。

たった一軒の森の家。

たった一台の薪ストーブ。

そこから、私の移住計画は、

少しずつ山のほうへ向かい始めた。

海派だったはずなのに。

人生、分からないものである。