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Season 0|移住準備編Episode 01

夫は山派、私は海派。房総半島を猛烈に探し始めた

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日本には、思っていた以上にたくさんの別荘地やリゾート地がある。

軽井沢をきっかけにそれを知ってから、私たちの移住先探しは一気に全国へ広がった。

高原。

温泉地。

海沿い。

南国。

知らない土地の名前を見つけては検索して、物件を覗いて、地図を開く。

そんなことを繰り返しているうちに、夫と私の好みの違いもだんだんはっきりしてきた。

夫は山派だった。

私は海派だった。

短期間暮らすだけなら、私も高原は好きだった。

窓を開ければ森が見えて、鳥がぴちゅぴちゅ鳴いている。

夏でも涼しくて、朝晩は少し肌寒い。

そんな場所に数週間、あるいは数か月暮らすのは楽しそうだと思う。

でも、本格的に移住するなら海の近くがいい。

このころの私は、そう思っていた。

理由はいたって単純である。

犬を連れて砂浜を散歩したら楽しそうだったからだ。

海辺を犬と歩く。

朝のまだ人が少ない砂浜を歩いたり、夕暮れどきに波の音を聞きながら散歩したりする。

いかにも移住生活らしいではないか。

一方、夫は山がいいという。

「海より山のほうが、いろいろできるじゃん」

みたいなことを言っていた。

いろいろって何?

と聞いたら、

たしか、

「カブトムシが採れる」

とか、そんな回答だった気がする。

私はそれを聞いて、

カブトムシのために移住先を決めるのか。

と若干思った。

でも、夫にとって山は「遊べる場所」だったらしい。

山菜を採ったり。

虫を探したり。

薪を拾ったり。

何かを育てたり。

土地があれば、いろいろなことができる。

一方の私は、山に対してそういう感覚をほとんど持っていなかった。

私は秋田県の生まれで、奥羽山脈の裾野で育った。

子どものころから、山はいつもそこにあった。

家を出れば山が見える。

田んぼの向こうにも山がある。

季節が変われば山の色が変わる。

だから私にとって山は、

遊びに行く場所というより、眺めるものだった。

登山だって、記憶にあるのは学校行事で二回くらい。

キャンプも学校行事で一回。

家族でキャンプをしたこともなければ、休日に山登りへ行ったこともない。

山は身近すぎて、むしろ「わざわざ住みに行く場所」という発想がなかったのかもしれない。

夫が山、山と言うので、

だったら私は海だ。

と、どこか張り合うように海の近くを調べ始めた。

そこで候補として急浮上したのが、

千葉県の房総半島だった。

雪国育ちの私には、房総がものすごく魅力的に見えた

房総半島の何がよかったのか。

まず、暖かそうだった。

私は水分をたっぷり含んだ、重い雪が降る土地で育った。

冬になれば雪が積もる。

雪かきもしなければならない。

道路は凍る。

春になれば雪解けでぐちゃぐちゃになる。

だから、

「冬でも雪の心配が比較的少ない」

というだけで、私にはかなり魅力的だった。

しかも東京からそれほど遠くない。

海がある。

魚もおいしそう。

犬を連れて砂浜を歩ける。

なんとなく、

「本格的に地方へ住むなら、こういうところがいいのでは?」

と思い始めた。

そこから私は、房総半島の物件を猛烈に探した。

館山。

南房総。

海に近い場所。

少し内陸へ入った場所。

地図と物件サイトを行ったり来たりした。

このころの私は、もう「ちょっと見る」では済まなくなっていた。

広い中古住宅が欲しい。でも、思ったほど安くない

地方なら、東京よりずっと安く広い家に住める。

最初はそんなイメージを持っていた。

だから中古住宅を探した。

せっかく地方へ行くのだから、狭い家は嫌だった。

犬もいる。

猫もいる。

庭も欲しい。

できればドッグランも作りたい。

そうやって条件を積み上げていくと、当然ながら選べる物件は減っていく。

「ここなら住みたい」

と思うような中古住宅は、意外と高かった。

一方、値段が安いものを見ると、

築年数がものすごい。

築百年近い古民家なんかも出てくる。

今なら古い家を見て、

「ここ壊して広くできそう」

「この和室は残したい」

「玄関増築したら化けるのでは?」

などと考える私だが、このころはまだ、そこまで古民家に耐性がなかった。

古い。

暗い。

寒そう。

水回りが怖い。

そして思った。

……じゃあ、もう新築でいいんじゃない?

このあたりから、話がおかしくなっていく。

物件探しをしていたはずが、家を設計し始めた

どうせ建てるなら、犬猫と暮らしやすい家がいい。

そう考え始めた。

庭にはドッグラン。

外から帰った犬をすぐ洗えるように、足洗い場も欲しい。

玄関には土間収納。

食品をたくさん置けるウォークインパントリー。

洗濯物が片付けやすいランドリー。

ファミリークローゼット。

庭へそのまま出られる大きなリビング。

そして平屋。

私はChatGPTに、

「こんな家がいい」

「あれも欲しい」

「これも付けたい」

と注文を出し始めた。

すると、あっという間に理想の間取りが出来上がった。

さらには室内のイメージまで出来上がった。

明るい木目のLDK。

庭を眺める大きな窓。

広いキッチン。

収納たっぷりの玄関。

庭には犬。

すばらしい。

非常にすばらしい。

物件を探していただけだったはずなのに、

いつの間にか注文住宅を建てる話になっていた。

しかも、かなり本気である。

土地は100坪くらい。

土地代、ざっくり2000万円。

建物は60坪……ではなく、当時想定していた規模や設備を積み上げていくと、建築費もそれなりになった。

ざっくり4000万円。

合計、

6000万円。

夢の家が完成した。

そして私は、その数字を見て、

ようやく我に返った。

……ちょっと待て。何のための移住だったっけ?

そもそも、どうして移住を考え始めたのか。

東京のマンションという資産がある。

それを将来売ったり、活用したりすれば、今までほど必死に働かなくても暮らしていけるかもしれない。

仕事のペースを落とせるかもしれない。

東京に住み続けることだけが人生ではない。

だったら地方へ移るのもいいのではないか。

そんな話から始まったはずだった。

なのに気づけば私は、

地方へ移住するために6000万円の家を建てようとしている。

……あれ?

働く量を減らすために移住するのではなかったか。

移住先で新たに巨大な住宅費を発生させてどうする。

なんとなく、

最初の趣旨からズレ始めている。

ようやく、そのことに気づいた。

たぶんこのころの私は、

「地方なら安く暮らせる」

という話と、

「せっかく移住するなら理想の暮らしをしたい」

という話を、ごちゃ混ぜにしていたのだと思う。

理想を積み上げれば、当然お金はかかる。

東京だろうが房総だろうが、それは変わらない。

ドッグランが欲しい。

収納が欲しい。

広いLDKが欲しい。

新築がいい。

広い土地が欲しい。

ひとつひとつは、それほど無茶な希望には見えない。

でも全部載せれば、

6000万円の家になる。

移住とは恐ろしい。

夢は、足し算なのだ。

それでも、海への憧れは消えなかった

房総に新築を建てる計画は、いったん頭の隅へ追いやった。

さすがにこれは違う。

そう思った。

でも、

犬と海辺を歩く暮らしへの憧れまで消えたわけではなかった。

新築じゃなくてもいい。

もう一度、中古住宅を探してみよう。

そう思って私は、房総半島の物件情報を眺め続けた。

ところが、海に近い物件を真面目に調べるほど、今度は別の言葉が目に入るようになった。

津波。

塩害。

海抜。

海がすぐそこにあるということは、

海がすぐそこにあるということだった。

当たり前なのだが、憧れているときにはあまり考えていなかった。

砂浜まで歩いて行ける。

それは最高に魅力的だった。

でも地震が起きたときにも、その海は歩いて行けるほど近い。

海辺で暮らすということには、憧れだけでは済まない現実もあるらしい。

私はそこから、もう少し真面目に、

「海の近くに住む」ということ

を調べ始めることになった。

この記事のトピック

全国の移住先を探すうち、夫婦の好みが真っ二つに

  • 夫は山派。
  • 私は海派。
  • 短期滞在なら高原もいいが、本格移住なら海辺に惹かれていた。

夫にとって山は「遊べる場所」

  • 山菜、虫、薪、土地遊びなど。
  • 「山ならカブトムシが採れる」という謎の説得材料も登場www

秋田の山裾育ちの私は、山に特別感がなかった

  • 山は遊びに行く場所ではなく、昔からそこにある風景。
  • だからこそ、移住するなら自分の知らない「海の暮らし」に惹かれた。

房総半島が一気に有力候補になる

  • 東京から遠すぎない。
  • 比較的温暖。
  • 雪の少なさが雪国育ちには魅力的。
  • 犬と砂浜を散歩する暮らしを想像する。

館山・南房総の物件を猛烈検索

  • 海近、内陸、土地の広さなど、かなり具体的に探し始める。

広い中古住宅は意外と高かった

  • 条件のいい家は思ったほど安くない。
  • 安い物件は築年数がかなり古く、築100年級の古民家も。
  • 当時はまだ古民家リノベへの耐性が薄かった。

「じゃあ新築でいいのでは?」と方向転換

  • ドッグラン
  • 犬の足洗い場
  • 土間収納
  • ウォークインパントリー
  • ランドリー
  • ファミリークローゼット
  • 庭につながるLDK
  • 理想の平屋をChatGPTと設計し始める。

気づけば6000万円の注文住宅計画に

  • 土地約2000万円+建物約4000万円。
  • 物件探しだったはずが、いつの間にか本気の新築計画へ。

「……何のための移住だったっけ?」と我に返る

  • 本来は資産を活かして働く量を減らすための移住だった。
  • なのに地方で6000万円の家を建てようとしている。
  • 理想を積み上げるほど、当初の目的からズレていった。

それでも海への憧れは消えない

  • 新築計画はいったん撤回。
  • もう一度、房総の中古住宅を探し始める。

海辺暮らしの現実が見え始める

  • 津波
  • 塩害
  • 海抜
  • 「海まで歩ける」は魅力である一方、災害時にも海が近いということ。