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移住先を探し始めたころ、私が見ていたのはほとんど家だった。
木の家。
薪ストーブ。
広いリビング。
大きな窓。
ウッドデッキ。
吹き抜け。
平屋。
古民家。
ログハウス。
「こんな家に住みたい」
というイメージは、いくらでも出てきた。
だから最初は、
理想の家を見つければ、移住先も決まる
くらいに思っていた。
でも土地探しを続けているうちに、少しずつ考え方が変わっていった。
家は直せる。
でも、
土地は簡単には変えられない。
キッチンは替えられる
中古物件を見ていると、
キッチンが古い。
浴室が古い。
壁紙が好みじゃない。
和室ばかり。
収納が少ない。
そんな家がたくさんある。
最初は、
「うーん、ちょっと違うな」
と思っていた。
でもリフォームについて調べていくと、
キッチンは替えられる。
壁も変えられる。
床も張り替えられる。
和室を洋室にすることもできる。
間取りだって、構造によってはある程度変えられる。
古い家でも、
手を入れればかなり雰囲気は変わる。
すると、
建物に対する見方が少しずつ変わってきた。
「今どうなっているか」より、
「どこまで変えられるか」
を見るようになった。
でも、隣の家は動かせない
一方で、
どうにもならないものもある。
隣家との距離。
道路の広さ。
土地の高低差。
山の見え方。
周囲の建物。
日当たり。
風の抜け方。
集落の雰囲気。
これらは、
キッチンのように交換できない。
「隣の家、もう少し向こうに移動してください」
とは言えない。
当たり前である。
でも物件探しを始めたころの私は、
建物の中ばかり見ていて、
こういう部分をあまり意識していなかった。
接道はリフォームできない
土地探しをしていて、何度も気になったのが道路だった。
家はすごくいい。
庭も広い。
景色もいい。
でも、
道が細い。
曲がり角がきつい。
大きな車が入れない。
工事車両が入れるかわからない。
こういう物件がある。
建物が気に入っても、
道路は簡単には変えられない。
しかも道路は、
毎日の生活だけでなく、
リフォームや建て替えにも関係してくる。
「この家、いいな」
と思ったあとで、
「でも工事車両どうするの?」
が出てくる。
私はまた現実に戻される。
水道も、土地側の問題だった
水回りが古いなら直せばいい。
そう思っていた。
でも、
そもそも水道が来ていない。
本管が遠い。
井戸しかない。
という土地もある。
つまり、
「設備の問題」
だと思っていたものが、
実は「土地の問題」だったりする。
家の中だけ見ていても、
暮らせるかどうかはわからない。
どこから水が来ているのか。
どこへ排水するのか。
ここまで確認するようになったあたりで、
私はかなり変わってきたと思う。
最初は薪ストーブしか見ていなかったのに。
景色は、お金をかけても買えないことがある
私は景色もかなり気になる。
窓を開けたとき、
山が見える。
空が広い。
隣の家が近すぎない。
これはかなり大事だった。
家そのものなら、
お金をかければある程度理想に近づけられる。
でも、
窓の向こうの景色は作れない。
もちろん木を植えたり、庭を整えたりすることはできる。
でも、
山そのものを移動させることはできない。
隣の家を消すこともできない。
空の広さも変えられない。
だから、
「この家、内装は微妙だけど景色がいい」
という物件を見ると、
以前より評価が上がるようになった。
内装は直せる。
景色は直せない。
日当たりも買い直せない
日当たりも同じだった。
土地の向き。
周囲の建物。
山や森との位置関係。
これでかなり変わる。
もちろん窓を増やすことはできる。
でも、
そもそも日が当たらない場所なら限界がある。
家を建てたあとに、
「やっぱり南側をもう少し開けたい」
と思っても、
土地の形は変わらない。
このころから私は、
物件写真の室内より、
航空写真や地図を見る時間のほうが長くなっていった。
なんだか不動産屋みたいになってきた。
家は建て直せても、土地は引っ越せない
極端な話、
建物は古くなれば建て替えられる。
小さければ増築することもできる。
庭も作り直せる。
でも土地そのものを変えたいと思ったら、
基本的には引っ越すしかない。
だから、
長く住むなら、
建物以上に土地の条件が大事なのでは?
と思うようになった。
もちろん建物も大切。
断熱。
耐震。
間取り。
設備。
全部重要。
でも、
それらはあとから手を入れられる可能性がある。
一方、
場所そのものは変えにくい。
「理想の家」より「理想の場所」
移住探しを始めたころ、
私は理想の家を探していた。
でもいつの間にか、
探しているものが少し変わった。
理想の家ではなく、
理想の家を置ける場所。
道路がちゃんとしていて。
水があって。
日当たりがよくて。
空が広くて。
隣家との距離があって。
犬が走れる余白があって。
木を植えられて。
できれば山が見える。
そこに、
自分たちの家を作ればいい。
そう考えるようになった。
建物に一目惚れしすぎない
中古住宅を探していると、
どうしても建物に目が行く。
梁が立派。
玄関が素敵。
古い建具がいい。
薪ストーブがある。
ウッドデッキがある。
わかる。
ものすごくわかる。
私もすぐ惚れる。
でも、
そこで一度、
外に出てみる。
道路を見る。
隣を見る。
空を見る。
土地を見る。
水道を見る。
そして、
この家がなくなっても、この場所に住みたい?
と考えてみる。
それで「住みたい」と思えるなら、
その土地はかなり強い。
理想の家を考えるほど、土地が重要になった
なんだか不思議だった。
理想の家について考えれば考えるほど、
最後に残るのは土地だった。
薪ストーブを置くには、
煙突を出せる家と周囲が必要。
犬を走らせるには、
使える庭が必要。
畑をするなら、
日当たりと使える土地が必要。
大きな窓を作るなら、
その向こうに見たい景色が必要。
つまり、
理想の家は、土地の上にしか作れない。
当たり前のことなのに、
私はずいぶん遠回りして気づいた。
最初は、
「どんな家に住みたい?」
と考えていた。
今は、
「どんな場所で暮らしたい?」
から考えるようになった。
家は、そのあと。
どうやら移住先探しは、
建物探しではなく、
暮らしを置く場所探し
だったらしい。



