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移住先を探し始めたころ、私は「別荘」にかなり惹かれていた。
森の中。
木の家。
大きな窓。
薪ストーブ。
ウッドデッキ。
ちょっと古くても、それが味になる。
しかも地方の別荘は、驚くほど安いものがある。
「これ、そのまま移住先にしたら最高じゃない?」
そう思うのは自然な流れだった。
ところが物件を見続けているうちに、少しずつ気づき始めた。
“泊まるための家”と、“毎日暮らす家”は、同じようでかなり違う。
週末なら楽しい。でも毎日だと?
別荘って、多少不便でも成立する。
むしろ、その不便さまで含めて楽しかったりする。
薪を運ぶ。
火を起こす。
少し狭いキッチンで料理する。
買い物に車で30分かける。
それも旅行ならイベントだ。
「非日常を楽しんでる!」
という気持ちになれる。
でも、それが365日続いたら?
ここで急に話が変わる。
薪ストーブしかない家
薪ストーブ。
最高である。
火を眺める。
木がはぜる音を聞く。
暖かい部屋でコーヒーを飲む。
もう絵になる。
週末の別荘なら、最高の設備だと思う。
ただし。
真冬の朝。
起きたときに火は消えている。
部屋は寒い。
そこから薪を持ってきて、火を起こす。
毎朝。
私はここで考えた。
薪ストーブは欲しい。
でも、
薪ストーブ“しかない”のは違うかもしれない。
ロマンと生活は、ときどき暖房器具の前で分かれる。
小さなキッチンは、旅行ならかわいい
別荘のキッチンって、小さいことがある。
コンパクトなシンク。
小さな作業台。
収納も最低限。
数日泊まるだけなら、それで十分。
簡単な朝食を作って。
夜は外食したり。
バーベキューしたり。
むしろ秘密基地みたいで楽しい。
でも毎日料理するなら、
まな板を置く場所。
炊飯器。
電子レンジ。
調味料。
鍋。
食器。
食品ストック。
どんどん必要になる。
すると、
「かわいいキッチン」
だったものが、
「物を置く場所がないキッチン」
に変わる。
生活というものは、容赦なく物を増やす。
収納は、暮らし始めると突然重要になる
別荘なら、持っていくものは限られている。
着替え。
食べ物。
ちょっとした日用品。
だから収納が少なくても困らない。
でも定住すると、
季節の服。
布団。
掃除道具。
防災用品。
食品。
書類。
趣味の道具。
ペット用品。
どんどん増える。
数泊なら問題なかった家が、
暮らし始めた瞬間、
「物をどこに置くの?」
という問題を突きつけてくる。
このころから私は、収納を「おまけ」ではなく、生活設備として見るようになった。
急な階段は、雰囲気はいい
別荘には、ちょっと変わった間取りも多い。
ロフト。
吹き抜け。
急な階段。
小さな寝室。
旅行なら楽しい。
秘密基地感がある。
でも、
洗濯物を持って毎日上る。
夜中にトイレへ行く。
重い荷物を運ぶ。
それを何年も続ける。
そう考えると、
「この階段、毎日使うの?」
という目で見るようになった。
数日なら楽しい不便。
毎日なら、ただの不便。
この境界線は意外と大きい。
断熱は、旅行では気づきにくい
夏だけ使われていた別荘や、古い建物では、
断熱性能が今の住宅ほど高くないこともある。
暖かい季節に内見すると、あまり気にならない。
窓が大きくて気持ちいい。
風が抜ける。
森も見える。
最高。
でも冬になったら?
床が冷たい。
窓際が寒い。
暖房しても熱が逃げる。
結露する。
寒冷地への移住を考えるなら、これはかなり重要になる。
「夏に気持ちいい家」と「一年中暮らせる家」は別物かもしれない。
そう思うようになった。
買い物が遠いのも、旅行なら楽しい
別荘地は、街から離れていることが多い。
スーパーまで20分。
コンビニまで15分。
ホームセンターまで30分。
旅行なら、
「途中で買っていこう」
で終わる。
むしろ山道を走るのも楽しい。
でも暮らすとなると、
牛乳がない。
醤油が切れた。
犬のフードがない。
薬を買いたい。
それが全部、日常になる。
週に何度も発生する。
すると距離の感じ方が変わる。
観光では気にならない20分が、生活では毎週の20分になる。
お風呂も、数日と365日では違う
別荘なら、小さな浴室でも問題ない。
近くの温泉へ行くのも楽しい。
「今日は温泉行こう!」
になる。
でも毎日となると、
雨の日。
疲れている日。
体調が悪い日。
そんな日でも入る。
すると、
脱衣所が狭い。
寒い。
洗面スペースがない。
浴槽が小さい。
こういう部分が、少しずつ生活のストレスになる。
旅なら楽しめることも、
暮らしでは「毎回」になる。
洗濯スペースなんて、最初は見ていなかった
物件を見始めたころ、洗濯機の置き場なんてほとんど気にしていなかった。
森。
眺望。
薪ストーブ。
ウッドデッキ。
そっちばかり見ていた。
しかし暮らすなら、洗濯はほぼ毎日する。
洗濯機はどこに置く?
干す場所は?
冬は乾く?
室内干しできる?
乾燥機を置ける?
数日の滞在なら洗濯しなくても済む。
でも定住すると、突然重要になる。
家探しというより、
生活動線チェックになってきた。
「旅行なら最高」と「暮らしたい」は違う
このころから、物件を見るときに自分へ問いかけるようになった。
ここ、3泊なら最高だけど、3年住みたい?
これが意外と効く。
薪ストーブしかない。
収納が少ない。
キッチンが小さい。
階段が急。
買い物が遠い。
夏は涼しいけど冬は寒い。
どれも数泊なら楽しい。
でも毎日になると、
「好き」
だけでは乗り越えにくい部分がある。
別荘が悪いわけではない
もちろん、別荘を定住用にすることがダメなわけではない。
設備を入れ替える。
断熱改修する。
収納を増やす。
キッチンを広げる。
暖房を追加する。
そうすれば、十分暮らせる家になることもある。
大切なのは、
“今の状態で暮らせるか”と、“直せば暮らせるか”を分けて考えること。
安い別荘を買って、必要なところだけ直す。
それもひとつの選択肢だと思う。
ただ、
「安いから」
「雰囲気がいいから」
だけで飛びつくと、
あとから生活設備を全部足すことになるかもしれない。
欲しかったのは「毎日が旅行の家」ではなかった

森の家を探していたころ、私はどこかで、
「毎日が旅行みたいな暮らし」
を想像していた。
朝は鳥の声。
薪ストーブ。
庭。
木漏れ日。
それは今でも欲しい。
でも、
旅行のような暮らしを毎日続けるには、
その下に、
暖房。
収納。
水回り。
家事動線。
買い物。
断熱。
そんな地味な生活基盤が必要だった。
そして気づいた。
私が欲しかったのは、
毎日が旅行みたいな家ではなく、毎日暮らしても疲れない家。
そのうえで、
窓の外に森があって。
鳥が来て。
薪ストーブの火を眺められたらいい。
ロマンを捨てる必要はない。
ただ、
ロマンの下に生活を敷いておく。
それが移住用の家を探すときには、大事なのかもしれない。



