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2026年8月初旬。
那須で中古別荘を見ていたころ、何度もページを開いてしまう物件があった。
那須ハイランドの唐松平にある、中古別荘。
価格は550万円。
土地は約400坪。
建物は約27坪の平屋。
築年数はかなり経っている。
外観も、最新の別荘という感じではない。
それなのに。
私はこの家が、妙に好きだった。
豪華だからではなく、「ちゃんと暮らしていた家」だった
この物件の室内写真を見て、最初に感じたのは、
「古いな」
ではなかった。
丁寧に暮らしていた家だな。
だった。
畳の部屋。
木の天井。
障子。
昔ながらの食器棚。
大きなダイニングテーブル。
少し古いキッチン。
家具も設備も、最新ではない。
でも、
「古くなったから放置された家」
という感じがあまりしなかった。
必要なものを置いて。
手入れをして。
季節ごとにこの家へ来て。
静かに暮らしていた。
そんな時間が残っているように見えた。
私はどうやら、
ピカピカにリノベーションされた家よりも、
誰かが大切に使ってきた痕跡のある家
に弱いらしい。
和室が、とてもよかった
特に好きだったのが和室。
大きな窓があって、
その向こうに木々が見える。
冬の写真では、外に雪が積もっていた。
畳に座って、
窓の外を見る。
春は新緑。
夏は森。
秋は紅葉。
冬は雪。
ここで本を読んだり。
原稿を書いたり。
そんな暮らしが、すぐ想像できた。
このころ私は、
和室の窓側を少し区切って、
3畳くらいの書斎にしたらどうだろう
なんてことまで考えていた。
机を置いて。
窓の外を森にして。
そこで小説を書く。
物件を買ってもいないのに、
もう仕事机の位置を決めている。
物件探しあるあるである。
広いリビングにも、昔の別荘らしい魅力があった
リビングも好きだった。
今どきのLDKではない。
キッチンは別。
和室も別。
でも、リビングそのものには十分な広さがあって、
大きな窓から外が見える。
立派なダイニングテーブルが置かれているのに、
窮屈に見えない。
天井の梁や柱も見えて、
どこか懐かしい。
「映える家」ではない。
でも、
長く過ごしたくなる家。
写真を眺めていると、
そんな感じがした。
そして、お風呂が妙に豪華だった
この家で、
「おお!」
となった場所がある。
お風呂。
浴室がかなり広い。
大きな窓が二面にあって、
湯船につかりながら森が見える。
壁には木が使われていて、
浴槽まわりには石。
ほかの部屋はどちらかというと素朴なのに、
なぜか風呂だけ急に旅館感がある。
ここは好きだった。
雪の積もった森を眺めながら、
温かいお風呂に入る。
これは相当よさそう。
しかもこの物件は、条件次第では温泉利用も考えられるタイプだった。
「別荘に来た」という満足感は、
ものすごくありそうだった。
約400坪。でも土地は緩い傾斜
土地も広かった。
約400坪。
数字だけ見れば十分すぎる。
犬を走らせる場所も作れそう。
木もたくさんある。
ただし、
平坦な400坪ではない。
家は緩い傾斜地に建っていた。
庭の写真を見ると、
地面はゆるやかに傾いている。
最初だったら、
「400坪!」
だけで喜んでいたと思う。
でもこのころには、
「実際に平らに使える場所はどれくらい?」
を見るようになっていた。
ドッグラン。
駐車場。
庭。
畑。
それぞれを置くなら、
どこが使えるのか。
400坪という数字そのものより、
家の周りにどれだけ使える場所があるか
のほうが気になるようになっていた。
そして、一番気になったのが冬だった
この物件は、
写真を見る限りとても魅力的だった。
でも、
どうしても引っかかることがあった。
冬。
唐松平は標高の高い場所にある。
私の記憶では、1000メートル近い高原エリア。
夏なら最高だと思う。
涼しい。
森がきれい。
避暑地らしい気候。
でも定住するなら、
冬もここで暮らす。
写真には雪が写っている。
1960年代築の木造住宅。
大きな窓。
昔ながらの造り。
私はだんだん、
「これ、冬寒くない?」
と思うようになった。
夏の別荘として最高と、定住できるは別だった
これは、このころ何度も考えるようになったことだった。
夏に来るなら最高。
数日泊まるなら最高。
雪の日に温泉へ入るのも最高。
でも、
1月。
2月。
朝起きる。
毎日。
それはどうだろう。
断熱は?
窓は?
暖房は?
水道凍結は?
雪はどれくらい積もる?
道路は?
そのころの私は、
ようやく、
「別荘として素敵」と「定住住宅として快適」は別
だと気づき始めていた。
この物件は、
まさにそれを考えさせる家だった。
それでも、何度も見てしまった
合理的に考えれば、
もっと新しい家もあった。
もっと平坦な土地もあった。
標高の低い場所もあった。
それでも私は、
何度もこの物件のページを開いた。
たぶん、
条件だけでは説明できない何かがあったのだと思う。
前の持ち主が、
この家で丁寧に過ごしていたように見えたこと。
森が近かったこと。
窓から季節が見えたこと。
畳の部屋があったこと。
少し古びているけれど、
荒れてはいなかったこと。
そして、
あのお風呂。
家を探していると、
「いい家」と、
「なぜか好きな家」は、
少し違う。
この物件は、
私にとって後者だった。
買わなかったけれど、覚えている家
結局、
私たちはこの物件を買わなかった。
その後、物件情報からも姿を消した。
たぶん、誰かが買ったのだと思う。
今写真を見ても、
少しだけ思う。
あの和室、書斎にしたかったな。
大きな窓の前に机を置いて。
森を見ながら原稿を書く。
疲れたら、
森の見えるお風呂に入る。
そんな暮らしも、
きっと悪くなかった。
物件探しをしていると、
買った家だけが記憶に残るわけではない。
買わなかったのに、
なぜかずっと覚えている家がある。
唐松平の物件は、
私にとって、
そんな一軒になった。



